HOME INFORMATION月1連載「Road to Opal」

Road to Opal 22

しばらく現代編に話は飛んでいましたが、時はまた遡ること2001年11月某日。
Winton 少し手前で精魂尽き果てた愛車、レッドファルコン号のエンジンの載せ替えという人間で例えるところの心臓移植の大手術を行うことになってしまったところまではRoad to Opal 17号までにお伝えした通り。
代替エンジンが届くまで、当初の旅の予想に大幅に反して1週間も Winton の町での滞在を余儀なくされた二人。日中は40度を上回るくらいの酷暑のなか、車中泊はさすがにできず、やむを得ずホテルに泊まることになったわけだが、代替エンジンの積替え費用諸々を計算すると旅の予算が大幅に削られてしまう現実を突きつけられることに。正直、今回の出費を考えてしまうと今後買い付けに回せる資金も残り2割ほどに目減りしてしまい、旅そのものも大幅に短縮せざるを得なくなってしまった。しかしまぁそこはおバカな二人なので、さして気にも留めず、今を楽しもうということで、晴れて Winton での一週間に渡る優雅なホテル生活が確定したのである。
クイーンズランド州の中西部に位置する人口およそ1000人ほどの小さい町ながらも主要道路が交差する、地域にとっては重要な要衝でもあり、オパール交易が盛んな町の一つでもある。周辺にはいくつものオパール採掘エリアが存在し、クイーンズランド州特有の個性豊かなボルダーオパールが産出されることでも知られ、年に一度7月第2週には Winton オパールフェスティバルが開催されるも、当時の二人はそんなことはつゆしらず。ふ
人口200人に満たないヤワのような小さな村と比べれば町の規模は約5倍近くあり、ひとしきりスーパーやホテル、パブ、レストランなどもあり、生活には困らない。とはいえ映画館やゲームセンターがあるわけでもなく、予定外に一週間過ごすとなるとなかなかに展望は厳しい。日本から持ち込んできた本もここに来るまでにあらかた読みつくしてしまっており、今と違ってスマホで時間つぶしができるような環境にもないとくれば何をして時間を潰すのかが最重要課題になる。
当然車がないのだからドライブに行けるわけでもなく、近くの観光スポットをめぐるわけにもいかず、結局のところホテルから徒歩でいけるプールにほぼ毎日通う事に。そうして日中、健全に過ごしすぎた身体を痛めつけるために、日が暮れると宿の向いにあるパブに夜な夜な繰り出していたのだ。
思えばオーストラリアのステーキの美味しさに目覚めたのはこの時の Winton 滞在がきっかけだったのだろうと思うと感慨深いものがある。
夜な夜な足繫く通っていたパブだが、気立ての良い、ブロンド美人のオージー姉さんがカウンター越しにいたからという理由では断じてないのである。の、はずである。
皿からはみ出さんほどのミディアムレアのステーキにマッシュルームソースを滴らせ、キンキンに冷えたXXXXGoldビールで毎夜のごとくキメテいたとある晩、すっかり常連気取りでパブのドアをくぐり席に着くと隣にはすでに先客が。頑健屈強な大男がカウンターでステーキを前に、ビールを豪快に飲んでいるのだが、よく見るとなにやら様子が変だ。いや、ただ単にかなり出来上がっているだけだ。うっかり隣に座ってしまったのが運の尽き。案の定からんできた。完全にベロベロだ。
ブロンド美人のオージー姉さんも気になるのかこちらの様子をちらちら伺いながら見守っている。
執拗になにやらしゃべりかけてきているのだが、ろれつが回ってないので正直何を言っているのか全くわからない。それでも大男はおかまいなしに続ける。「…ぽぉ….ぃぽぉ…」なになに??「..ぃぽぉ…えぃぽぉぉ…えいぽぉぉぉ…」。???。
はっ、わかった!「おぱーる」か!?ようやく通じたと見えて心なしか大男も嬉しそうに見えた。どうやら Winton 近郊で作業しているオパール鉱夫の一人のようだ。アジア人が珍しいと見えていろいろと話しかけていたようだが、依然「えぃぽぉ」以外は何を言っているのやらよくわからないので適当にいなす。すると突然、ステーキナイフを自らのステーキにずどんと突き立てたのだ。これにはビビった。さすがにブロンド美人のオージー姉さんも分け入ってきて「いい加減にしなさい!!」と大男をいさめてくれた。どうやらこの男も常連のようで、くだをまくのも昨日今日が初めてではなさそうだが、怒られて少しトーンダウンしてからは少し話も見えてきた。どうも自分が掘っているオパールを見てもらいたいようで、これから家に来いと言い始めたところで、「酔っ払ってナイフを振りまわす大男の家には着いて行ってはいけません」との家訓を思い出し(それは嘘なだが)、丁重にお断りを入れ会計を済ませパブを後にした。改めてオーストラリアの、いろいろな意味での豪快さを感じさせられた Winton での忘れられない体験となり、そしてなによりナイフを振りかざす大男を毅然と叱れるブロンド美人のオージー姉さんの恰好良さばかりが脳裏に焼き付いた日となったのである。

次号 「西へ、南へ、大移動」編

   
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