月1連載「Road to Opal」

Road to Opal 14

時は2001年11月某日夜
日は完全に落ち、周囲に街灯らしいものも何もない。月明かりすら、この夜はどこかに隠れてしまったらしい。野生動物達も鳴りを潜め、静寂に包まれた闇夜とはこんか感じか。
暗がりのなか、お世辞にも綺麗とは言えない民間の外階段を踏み締め、2階に向かう。風雨に晒され、ところどころ腐った階段を踏みしめる度に悲鳴のようなきしめく音が何者かの断末魔のようにアウトパックの闇に吸い込まれてゆく。
前号よろしく、オパールを見せてくれると言う鉱夫2人の棲家に向かい、薄暗い民家の2階に通された。
2対2だ。いざとなれば大丈夫か、、背筋には一筋の汗が糸を引くように伝う。胸の内に秘めた緊張を気取られないよう平静を装いつつ、勧められたボロテーブルに座る。
まるで映画の闇取引シーンよろしく、席に座るのは洋灯舎1人だ。その少し後ろに相方Kが相手を警戒するように仁王立ち。相対する鉱夫2人も同じ構図だ。布も引かず、木製のテーブルにそのまま、じゃらりとオパールの入った小袋をぶちまける相手。乱雑に投げ出されたオパールに目を落とし、しばらく沈黙が訪れる。やがて、視線を相手に合わせると、計ったように互いの左の口角が少しあがる。。。
などとここまでドラマチックな展開ではない。
とは言え内心かなり緊張したのは本当でこのシーンは今でも深く印象に残っているのです。
これまでにショップとして構えているオパール店に入った事はあるものの、家に入り込んでの、人目のない場所での取引めいたことなどただの一度もないわけだから、緊張もひとしおなわけでして。日本人としては巨漢な部類にはいる相方Kを実際に警戒のために一歩下がって後ろで立ってもらっていたのは本当の話しで、いまにして思い返せば赤面ものですが、それだけ当時は経験も何もなかったという事なのです。
そんな初めてのワンシーンも、蓋を開けてみれば派手な銃撃シーンが展開されるわけでもなければ、テーブルをひっくり返しての肉弾バトルが勃発するわけでなく(当然か)、単に磨いたばかりのボルダーオパールのロットがじゃらじゃらと袋から取り出されただけである。キルピーもヤワ同様、同じクイーンズランド州という事もありボルダーオパールの産地である。いわゆるQueensland Boulder、クイーンズランドボルダーである。
目の前に広げられたオパールの数々、ヤワほどの衝撃的な感動はないものの、いくつか目を引くピースを選びただでさえ心もとない買付け資金を更にすり減らした後、瓶ビールで軽い祝杯?をあげ、無事に立ち去ったのである。
散々緊張したあげく、あっけなく幕を閉じた初めての取引らしい取引を済ませた2人。キルピーの宿に歩いて帰り、部屋飲みを軽くすませベッドに潜り込むと、次なる目的地へ思いを馳せつつもやがて、静かな夜に引き込まれてゆくのであった。

次号「アウトバックを駆け抜けろ!」

   
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